東京女子医科大学癌免疫療法チーム
自己リンパ球移入療法

 みなさんの体の中にはいろいろな細胞があります。血液の中には主に酸素を運搬する赤血球(赤い色をしています)、血を固める働きをする血小板、体の免疫力を司る白血球の3種類があります。
 このうち体の中から採血で白血球をとりだしてきて、体外でさまざまな方法で刺激をして(活性化して)数を増やしてあげたものが自己リンパ球と呼ばれ、これをもう一度体の中に戻してあげる治療が自己リンパ球移入療法です。
体の中の刺激されていない普通のリンパ球は、癌細胞がそばに存在していてもほとんど攻撃しません。戦いを知らない普通のリンパ球は、体外の訓練所で教育・特訓をうけ犯罪者を攻撃する強力なリンパ球に生まれ変わります。

 自己リンパ球移入療法は、安全に外来通院で受けていただける治療です。新しい治療ですので、未知の副作用が出現する可能性も否定はできませんが、今までのところ大きな副作用は経験していません。まれに、治療中あるいは治療終了後48時間以内に40度以下の発熱がみられることがありますが、一時的なものです。翌日には解熱することがほとんどですので、ご心配いりません。解熱剤で対応することができます。

図3

▲通常の体の中にある活性化されていない普通のリンパ球は、たとえ癌がそこにいても、ほとんど攻撃をしません。

図4

▲リンパ球は、そのままでは癌を攻撃することもないただの細胞でしかありませんが、活性化させることにより、悪いものを手当たり次第見つけては攻撃する、警察官のような活性化自己リンパ球と、攻撃する癌細胞を認識して、特定の相手だけと戦う兵士のようなリンパ球(CTL)になります。

 自己リンパ球移入療法には3種類あります。原理的には同じものですがリンパ球を刺激して増やしてやる方法が異なります。

 (1) 活性化自己リンパ球移入療法(CAT)
 (2) 自己癌特異的リンパ球移入療法(TCTL)
 (3) 人工抗原特異的リンパ球移入療法(PCTL)

(1)活性化自己リンパ球移入療法(CAT)
「非特異的癌免疫療法」
 採血したリンパ球を体外で、サイトカイン(リンパ球を刺激する物質)で刺激し増やしたのち、体内に戻す療法です。
 このリンパ球は疑わしい人間を取り締まる警察官に例えることができます。癌細胞という犯罪者を活性化自己リンパ球という警察官がとりしまるわけですが、残念ながら犯罪者の指名手配写真を持っていません。そのためあやしいと思われるものを残らず取り締まらなくてはいけませんから、犯罪者を十分に取り締まるためには多勢の警察官が必要になってきます。

図5

▲活性化自己リンパ球移入療法は、犯罪者が近くにいると捕まえる警察官のはたらきと似ています。

図6

▲活性化された自己リンパ球は、癌の近くにいるときは攻撃を開始します。

 CAT療法は、国立癌センター中央病院の臨床試験では、原発性肝細胞癌の手術後の再発予防として有効であったと報告されています。また癌性胸膜炎、癌性腹膜炎による胸水・腹水に対して、胸腔内あるいは腹腔内に投与すると局所効果があり、一時的に胸水あるいは腹水を減量、消失させることが報告されています。
 東京女子医科大学消化器病センターの臨床試験では、原発性肝細胞癌術後の遺残に対して、カテーテルを用いてCAT細胞を肝動脈内注入することによって局所効果(増殖抑制効果)を得られることが報告されています。したがって、原発性肝細胞癌に対しては、再発予防効果あるいは現在肝臓内に存在する癌病巣に局所効果を得ることができる可能性が期待されています。
 活性化自己リンパ球移入療法は、未知の副作用が出現する可能性を否定はできませんが、今までのところ大きな副作用は経験していません。まれに、治療中あるいは治療終了後48時間以内に40度以下の発熱がみられることがありますが、一時的なものです。翌日には解熱することがほとんどですので、ご心配いりません。解熱剤で対応することができます。
 劇的に効果のある治療法ではありませんが、癌の再発予防、あるいは癌の進行をくいとめる(癌との共存)ことを目的として、日常生活を犠牲にすることなく受けることができます。

(2)自己癌特異的リンパ球移入療法(TCTL)
「特異的癌免疫療法」
 採血したリンパ球を体外で、手術で摘出した自己の癌とサイトカイン(リンパ球を刺激する物質)と混ぜ合わせて刺激し増やしたのち、体内に戻す療法です。
 採血した普通のリンパ球(まだ戦いを知らない生徒)を、自己の癌とサイトカインで混ぜ合わせて刺激することで、その癌の特徴を教え込み、攻撃するべき癌(犯罪者)を教えこまれた自己リンパ球(兵士)を作り出すのです。自己癌特異的リンパ球という兵士は、犯罪者の指名手配写真を持って体の中に送り込まれるので、体内にある癌(犯罪者)を探しだして選択的に攻撃すると考えられています。

 この治療法は約15年前から開始され、皮膚癌あるいは腎臓癌の再発に対して約30%程度の効果(癌の進行をくいとめるという意味で)が得られると 報告されています。

図7

▲自己癌特異的リンパ球療法は、その癌の特徴を専門的に教え込まれ、見つけだして攻撃をする兵士のようなはたらきをします。

図8

▲癌を認識した自己癌特異的リンパ球は、TCTLと呼ばれ、その認識した部位を専門的に攻撃するので、より効果的な治療が期待されます。

(3)人工抗原特異的リンパ球移入療法(PCTL)
「特異的癌免疫療法」
 癌はしばしば異常な物質を作っています。医療機関では異常な物質を採血で、腫瘍マーカーとして調べています。
 約10年前に癌が作る異常な物質を人工的に合成することが可能となり(人工抗原といいます)現在複数の人工抗原を治療に使用することができます。自己癌が保存されていない場合、採血したリンパ球を体外で、人工抗原とサイトカインで刺激し増やしたのち、体内に戻す療法が可能です。
 人工抗原特異的リンパ球は、癌(犯罪者)の服装や髪型といった間接的な特徴を教え込まれた自己リンパ球(兵士)です。そのため同じ服装や髪型をした者を癌(犯罪者)と考え攻撃します。

 この療法は自己癌を必要としない、簡便かつ有効な治療法と期待され開発されましたが、特定の方(白血球の型が適合する方)にしか行なうことができません。

図9

▲人工抗原特異的リンパ球療法は、癌の服装や髪型といった特徴を教え込まれた兵士が、その特徴をもったものを攻撃するはたらきをします。
 

前へ

次へ

Copyright(c); 2005 S.C.I.,Institute of Gastroenterology, T. W. M. U.